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ざっと通読したのだけれど、「同人誌に対するリアクション」であって特定のテーマを競作するというコンセプトではないためかヴァラエティに富んだものとなっている。それぞれの書き手の関心領域があからさまに露呈しているというのか。それぞれの書き手が得意分野を扱っているということもあって、充実した中身になっているのではないだろうか。
●表紙と巻頭言・巻末コメント
初の実写写真を使った表紙という大胆さ、そして題字の派手さも相俟ってなかなかこの企画の挑戦的/挑発的な要素を更に引き出しているのではないでしょうか。そして自分が書いた、あるいは自分が読んで感銘を受けた作品が膨大な同人誌の中に埋もれてしまうことへの危惧をいち早く一冊本を作ることで指摘した伊藤さんの堂々とした言葉に、何か励ましのようなものを感じます。自分の作品がリアクションの対象になってくれるためにも、きちんと意思表明としてレヴューを書いたり宣伝をしたりするのは大事だなと思ったり。
●有村行人「マンデリン、または孤独のカフェ」
正直なところ有村さんのこれまでの作品の中では一番面白いのではないかと思った。地に足の着いたオフビートな筆致から生まれる、様々な喫茶店に対するこだわりとそれを描写する登場人物のエンジニアとしての感慨が――登場人物とほぼ同世代だからというのもあるのだろうか――共感を呼び起こす。コーヒーの味の描写はかなり難しいと思うので、それがクリアされていることも印象に残ったのかもしれない。
●若葉幹人「理想の個室」
これは一種のトール・トークなのかな、と思いながら読んだ。建築という分野に対する登場人物のこだわりがコミカルに描かれていて面白い。フェティッシュな要素さえ感じさせる。もっと長い尺で読んでみたかった気がするし、他者との絡み合いで物語を進行させたらどうなるのだろうというところも気になった。
●霜月みつか「誰があの子を殺したの」
珍しいシナリオ形式。様々な細かい描写を通して現在を切り取ろうとする書き手の眼差しの強度を感じる。人身事故という素材を通してたまたま乗り合わせた登場人物たちの関係の冷淡さが、次第にそれぞれが持っている生きることの切実さや熱さを吐露していく方向へと転化していく過程が興味深い。そしてエンディングの余韻が忘れられない。
●志方尊志「議論好きの音楽家達―有村行人「小さな肩を震わせて」のポリフォニー」
バフチンを援用した評論。不勉強故バフチンを読んだことはないので書き手の議論の水準の高さについていけたという自信は全くない。普通会話を多用した小説は小説の指南書あたりではネガティヴな評価しか与えられないのが普通だけど――だから自分も会話を重ねた作品は書かないようにしているのだけれど――会話の応酬が持ち得るポテンシャルを上手く引き出しているという印象を抱いた。
●三糸ひかり「認識、解釈、反応、行動」
個人的にはこうした哲学的なエッセイが苦手なので、十分に内容を理解出来たという自信はない。だから再読が必要だろう。ただ、人が何かを認識しそれに対して反応を行うという「リアクション」というテーマに対して一番真っ向から向き合った作品はこれではないかとも思った。末尾の引用された書物に関しても興味を抱かされる。
●宵町めめ「丘の上のホテル」
丁寧に描かれたイラストレーションと、ややミステリアスな掌編の組み合わせ。絵と文章が分離されることなく構成されているせいで作品世界にすんなりと入っていける。絵柄から勝手に個人的にノスタルジックなものを感じたのだけどどうだろうか。子供だった頃他愛もない噂に恐怖していた頃を思い出させるような……。登場人物の表情がいい(特に71ページ)。
●高橋百三「あさやけの彼女」
見ず知らずの他者との遭遇と、それを通して変わっていった登場人物を描いた一編。ホラー的な要素を含んでいながら、結局は日常へと回帰していくところが例えば高橋さんの過去の「ハーメルン」を連想させる。派手な筆致ではないのおに、読み終わった後に様々な感慨が少しずつ滲み出てくるような……。
●秋山真琴「宵闇通事件」
秋山さんらしい世界だ。ライトノベル的でもありミステリ的でもある。今回は日常に根差した設定で描かれているのだけれど、本当に秋山さんは見えないものが見えるタイプの人なんだろうなと思いながら読む。ラストの活劇的なシーンはこれまで読んだことがなかったので新鮮に感じられた。どんどん色々なものを取り込むその意志に頭が下がる。
●蜜蜂いづる「発光」
このオチ、意味分かりますか?
●伊藤鳥子「はみだした人たちの宴」
この同人誌を締め括るに相応しい一編。伊藤さんらしくオタク的な要素(男の娘など)を素材として取り入れながら、登場人物たちがままならない不況を生きざるを得ないという苦しみをテーマとして巧く消化していると思う。文学フリマが終わっても、コミケが終わってもそれでも人生は続く。それに対して捨て鉢にならないで登場人物たちは向き合う。しみじみとしたものを感じた。
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